難聴
人は音源から生じた空気の振動を感じて音を認識し、音により生じた鼓膜の振動は、鼓膜の奥の小さな骨(耳小骨)を伝わり内耳に到達します。内耳では振動を電気信号に変換し、聴神経を伝わり脳へ到達して音として認識されます。難聴はこの行程が障害されることで起こります。音の振動がうまく内耳まで伝わらないことで生じる難聴を伝音難聴、内耳が障害されてうまく伝達できなかったりすることで生じる難聴を感音難聴、聴神経に異常がある場合は後迷路性難聴といいます。
伝音難聴を生じる疾患には鼓膜穿孔や中耳炎、耳小骨異常などがあり、感音難聴には突発性難聴や内耳炎、加齢性難聴、聴神経腫瘍などがあります。
突発性難聴
一側性の急性感音難聴(突発難聴)のうち、原因がはっきりわからないものを突発性難聴といいます。耳の中(内耳)の血流障害やウイルス感染が考えられていますが確定できるものはありません。
特徴のある症状として、片方の耳の突然の難聴と同側に耳鳴と耳閉感が起こることが多くみられます。30~40%にめまいが合併します。
この疾患はできるだけ早く治療を始めることが非常に重要です。発症後1~2ヶ月間に治療を行えば、程度の差はありますが聴力改善が期待できます。しかしそれ以降は回復が難しくなります。治療は薬物療法が主となります。これに高圧酸素療法等を併用することもあります。難聴の程度やめまいの合併によっては、十分な安静やストレス、不必要な音のブロックのため入院加療を行うことがあります。主たる薬物療法で不可欠なものがステロイド剤です。外来で通院治療を行う場合は内服を、入院治療を行う場合は点滴を処方投与しますが、近年は糖尿病などの合併症等のためにステロイドの内服点滴投与が難しい方々を対象に、鼓室(中耳)内注入による投与も行われています。
関連リンク:厚生労働省 eヘルスネット 突発性難聴
急性低音障害型感音難聴
若年~中年の女性に多く、突発性難聴と同様、片側の耳閉感や耳鳴などが症状となります。症状が強くなるとめまいなどを伴うこともあり、今までは突発性難聴やめまいを伴わない蝸牛型メニエール病と言われたケースも含まれていたと考えられます。詳細な診断基準が厚生労働省より2017年に改訂され公表されています。
突発性難聴と比較すると、聴力検査で低音部(500Hz以下)のみの低下を認めていて、軽度であればステロイド剤を使わずに改善することもあります。
一般的にはステロイド剤や利尿薬、循環改善薬の内服で治療をします。約30%程度は再発を繰り返すと言われています。
メニエール病
突発性難聴と同様、一側性の急性感音難聴が起こりますが、他に激しい回転性めまいや患側の耳鳴や耳閉感を発作的に繰り返す、症状に波があるのが特徴です。元ジャニーズアイドルの今井翼さんが発症されたことで広く知られるようになりました。
「内リンパ水腫」といわれる、リンパ液が過剰になることによる内耳(特に蝸牛)のむくみ、水ぶくれのため起こるとされていますが(イラスト)、詳細な原因ははっきり判っていません。この程度が増強すると急性期症状も強くなります。症状は波がありますが長い経過の重症例では、徐々に聴力や平衡感覚が落ちたままになることもあります。
治療は症状発作のとき(急性期)とそれが落ち着いているとき(寛解期)で異なります。急性期症状は回転性めまいや嘔気・嘔吐が強く出ることがありますので、対症療法のために入院点滴が必要になる場合があります。寛解期は内リンパ水腫を抑えるための治療になり、利尿剤や水代謝を促す漢方薬等を使用します。個人差がありますが長期治療が必要になることもあります。
近年中耳加圧療法という新しい治療法が登場しました。耳の穴から圧力をかけた空気の振動波を耳に入れる方法です。これは従来から他の病気で使われてきた鼓膜マッサージをメニエール病の治療に応用したものです。※当院では行っていない治療法になります。
良性発作性頭位めまい症
耳が原因で起こるめまいの中で最も多くを占める病気です。全体の20~40%を占めます。
朝起き上がる時、寝返りをうった時、起き上がって少ししてぐるぐる目が回って立っていられず、数分間待っていたら症状が良くなったが、また同じ動きを繰り返すと目が回るというのが典型的な症状です。前庭内にある耳石が剥がれて三半規管の中に入り込んでコロコロと動き回ったり、三半規管の根元の膨大部内にある、クプラというイソギンチャク様の部分にくっついたりすると刺激が増強されめまいが発症します(イラスト)。しかし三半規管から耳石が出てしまうかなくなってしまえば症状は改善、消失します。難聴や耳鳴、耳閉感を伴わないのも特徴です。
眼振検査を行い、頭や体の位置を変化させることで特有の眼振(眼球の揺れ)が起こるかを確認して診断します。
治療は急性期はめまい止めや吐き気止めを使って治療を行いますが、最も避けるべきことはめまいが激しい、吐き気が強いもしくは実際吐いてしまうと「安静にしないといけない」と考えて長時間寝たきりになることです。短時間ずつでも積極的に頭や体を動かす(日常の生活の動きで可です)ほうが症状は徐々にですが減弱していきます。
薬物治療以外に理学療法や自宅でもできる体操のリハビリが行われます。上述した剥がれた耳石を三半規管から出そうとする治療方法です。
起立性調節障害
交感神経、副交感神経の自律神経の機能が障害されることで、循環機能障害(特に脳への血流低下)を呈し、ふらつき、立ちくらみなどが生じる疾患です。思春期や高血圧治療中の方に比較的多く、また男性よりも女性に多い傾向があります。
症状はふらつきや立ちくらみのことが多く、回転性めまいはあまりみられません。他には朝起きるのが辛い、頭痛、嘔気、倦怠感があります。原因はストレス、睡眠不足、水分の摂取不足などが挙げられますが、高血圧治療も影響することがあります。
問診、一般的な聴力検査やめまい、ふらつきの検査、起立試験(シェロングテスト)などから診断を行います。
治療としては生活習慣の改善や血圧のコントロールが主となりますが、漢方薬が効果を認める場合もあります。