症状
- 口角から水がこぼれる
- 食べ物が口からこぼれる
- 口笛を吹くと空気が漏れる
- 目が閉じにくい
- 閉じれない(閉眼困難)
- 目の乾燥
- 充血(ドライアイ)
- 聴覚過敏(音が響く)
- 味覚障害
など
かおの病気
顔面神経は、主に顔の表情を作る筋肉(表情筋)を動かす作用をつかさどっています。顔面神経は、脳から直接出て内耳道という骨の管を通り、さらに側頭骨という耳の周りの骨の中を走行します。その骨から出ると耳下腺という唾液腺の中に入り、その中で分岐しながら、顔面の皮下を走っています。その枝が前頭筋(額のしわよせの筋肉)、眼輪筋(まぶたを閉じる筋肉)や頬、口輪筋(口を閉じる筋肉)などの表情筋に到達し、それらの動きを制御しています。他にも顔面神経には中耳の耳小骨の一つであるアブミ骨に付着する筋肉(アブミ骨筋)の運動や唾液や涙の分泌、味覚に関する神経も含まれます。
顔面神経麻痺は、顔面神経が障害を受け、表情筋を自由に動かせない状態です。障害の部位や程度に応じて、アブミ骨筋反射の低下による音の響き、涙腺機能障害によるドライアイや結膜炎、唾液分泌障害による口腔乾燥、味覚障害なども出現します。
など
炎症、感染、外傷、腫瘍など多数の原因があり、末梢性の神経障害と中枢性の神経障害があります。中枢性は脳血管障害(脳梗塞など)等が原因で起こります。代表的なものとして、ベル麻痺(特発性麻痺)、(ラムゼイ)ハント症候群が挙げられます。これらで麻痺全体の70%程度を占めます。
顔面の動きから麻痺の程度を10種類40点満点で評価します(顔面スコア)。10点未満の場合は重症です。発症から1週間~10日以降に神経への電気刺激で神経がどのくらい障害されているかを調べる筋電図検査を行います。その結果で予後が良好か不良か判断できます。この結果が悪ければ手術も検討する場合があります。
神経の変性の拡大阻止が重要で、発症後早期の治療が望まれます(できるだけ1週間以内)。麻痺発症後無治療期間が長くなるほど治療効果が出にくくなります。薬物療法が主で、症状や程度に応じてステロイド薬や抗ヘルペスウイルス薬を約7~10日間程度連日内服もしくは点滴します。炎症が高度で改善の見込みが著しく低い場合や上記の筋電図検査結果が悪い場合には、腫れた顔面神経の圧迫をとるための手術(顔面神経減荷術)が適応になることがあります。
また後遺症の予防、回避を目的としたリハビリテーション治療も顔の動きが戻り始めたら少しずつ開始します。急性期のリハビリは、表情筋の筋伸長マッサージ(手を用いて顔面の筋肉をゆっくりほぐす、伸ばす)、蒸しタオルなどで麻痺の部位を温める(温熱療法)などがあります。高度麻痺では、鏡を見ながら額にしわをよせる、目を大きく開く、軽く閉じる、イーと歯を見せる、口をへの字に曲げる等の運動を自身で確認、認知しながら意図する筋肉のみをゆっくりしっかり動かすリハビリ(ミラーバイオフィードバック療法)も継続します。
明らかな原因が特定できない場合にベル麻痺と診断され、現在では単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の再活性化により生じると考えられています。このウィルスにはほとんどの人が感染し、幼児期に口内炎や舌にできる水疱などを発症し、治癒後も体内に潜んでいる場合があります。末梢性顔面神経麻痺の約70%を占めます。治療により80%程度は治癒します。
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化により生じます。このウイルスも幼少期に感染することが多く、顔面神経麻痺のほかに耳介や耳周囲の激しい疼痛を伴う帯状疱疹と、めまいや難聴といった症状の併発をきたします。末梢性顔面神経麻痺の約10~15%を占めます。ベル麻痺に比べて治癒率が低く、治療を行っても治癒するのは50~60%と言われています。
病的共同運動とは、まばたきや閉眼と同時に口角が挙がったり、食事や会話で口を動かした時に瞼が下がったりという、無意識で起こる異常な運動のことです。顔面神経麻痺の後遺症では最も頻度が高く、かつ一度発症してしまうと自然に治ることは困難です。病的共同運動を予防するために用いられるのが、ミラーバイオフィードバック療法です。
何らかの原因で神経が圧迫、障害され、脳からの指令が正しく伝わらず、自分の意志に関係なく、自由に目を開けることが難しくなったり、瞬きが増えたりする病気です。他にまぶしい、目が乾く、しょぼしょぼする等の症状が出ます。放置しておいて自然に治る病気ではありません。患者の約7割が女性です。特に中高年(50~70歳代)に多くみられます。
何らかの原因で顔の筋肉の動きをつかさどる顔面神経が圧迫、障害されると、自分の意志に関係なく、目のまわりや口、頬、顎など顔の片側の筋肉だけがピクピクとけいれんする病気です。こちらも放置しておいて自然に治る病気ではありません。
また末梢性顔面神経麻痺発症後1年以上経過し、二次性顔面けいれんが発現する場合もあります。患者の約7割が女性です。特に中高年(50~70歳代)に多くみられます。
ボツリヌス菌が作り出すA型ボツリヌストキシン(毒素)を有効成分とする薬物を過度に緊張した対象筋肉に注射することによって、けいれんの原因となっている神経の働きを抑え、筋肉の緊張を和らげ、症状を改善させる治療です。菌そのものを注射するのではないのでボツリヌス菌に感染することはありません。
わが国では2000年に初めて承認され、眼瞼けいれんや片側顔面けいれん等が保険適用となっています(当院ではしわの除去等の美容形成対象の注射は行っておりません)。顔面神経麻痺後の顔面表情筋の病的共同運動や拘縮にも有効性が示されています。
初診時問診、診察を行い適応であることを確認後、薬剤を発注し次回の受診日を予約し施注する流れとなります。
効果は2日~2週間で現れだし、効果は通常3~4ヶ月間持続します。
眼瞼けいれんの場合、細い針で眼輪筋周辺に施注します。費用の目安は初診料、再診料を含め3割負担で1万5千円弱、1割負担で5千円弱です。片側顔面けいれんの場合、けいれんが出ている顔面筋に施注します。初診料、再診料を含め3割負担で2万5千円弱、1割負担で8千円程度です。時間とともに徐々に効果は減弱、消失しますが、再投与により同様の効果が現れます。
この治療により、90%以上の患者さんで症状改善効果が認められたと報告されています(グラクソ・スミスクライン株式会社開発本部PMS部:A型ボツリヌス毒素製剤ボトックス注100市販後調査の概要-第8版- 2006年6月)。治療の効果には個人差がありますので、1回の注射で症状が改善してしまう方、定期的な再投与が必要とされる方様々です。
多くは一時的なものですが、以下の症状がみられたときはご相談ください。
治療は病気そのものを根治させるのではなく、症状を軽減し少しでも日々の生活をしやすくするために行うものです。継続しているうちに2~3割の方は徐々に症状が改善する傾向にあります。ご本人にとっては難しいことではありますが、気長に、上手に病気と付き合う姿勢が大切です。